終りなき夜に生れつく
タイトル買いした1冊(記事参照)。
面白くてあっという間に読んだ。なんかもう寝る間も惜しんでって感じで。
が、しかし。
すごく面白くはあったんだけど、最後のどんでん返しが反則技に近い力技だったために微妙にすっきりしない読後感となってしまった。
心境としては、全力で信頼してたのにあっさり裏切られてしまって、呆然とするやらいっそ清々しいやら…という感じ。
ただ、ミステリではなく悲恋物として読む分には、このどんでん返しも気にならない、というかむしろ効果的だろうと思う。
面白さの内訳はミステリ成分2に対して、切なさ成分8、といったところか。
以下、完全ネタバレになるので折り畳んでおきます。
クリスティーは上質のミステリを書きながら、そこに恋愛を織り込むのも巧い作家だったのではないかと思う。
私が読んだ中では、『ナイルに死す』などその白眉だった。
大金持ちの親友に恋人を奪われ、憎しみから彼らをつけ廻していた女が実は…という話で、憎しみと愛が反転する瞬間のぞくぞくするような切なさが忘れがたい。
ところで、ネットの作品評を見ると、どうもクリスティーはこの、“不仲に見えた男女が実は恋人同士だった”というトリックを謎解きの肝にしていることが多いらしい。
『終りなき夜に〜』もまさに同じパターンなのだが、この作品はさらに、かの『アクロイド殺し』のトリックをそのまま使っているのである。
同じトリック、しかも結構ずるいトリックを二回も使うなんて…!と、読んでる方としては「そんなんあり!?」な気分になるのも無理からぬところだろう。
とまあ、ミステリとしてはちょっと残念な出来なのだが、先に述べたように恋愛モノとして読むならとても面白い。
或いは、『終りなき夜〜』におけるこのトリックの意義は、自分の気持ちに気付かず妻・エリーを殺してしまう主人公マイク、彼の悲哀を際立たせることにこそあるのかもしれない。
エリーはマイクの邪悪さに気付きながら、それを気にすることはなかった、とマイクは云う。
それほどエリーは純粋で、そしてマイクを心から愛していたのだろう。
だからこそ、「あたしのこと、あなたは愛してるみたいに見てるんですもの……」というセリフは、いっそう哀しく、切なく響く。
この作品はそんな、“幸せとよろこびに”生れついた女と“終りなき夜に”生れついた男との、決して交わることのない恋の物語と云えるかもしれない。
Comments
ももさんが寝る間も惜しんで読んだってことで、機会があったら是非とも読みたいなと思っておりました。
>クリスティーは上質のミステリを書きながら、そこに恋愛を織り込むのも巧い作家だったのではないかと思う。
私がクリスティを読んだのはたぶん二十歳前後で、まあ有名どころの作品数冊のみだと記憶してます。
このたびこの作品を読みまして、ああほんとにそのとおりだなと思いました。
自分自身でさえ気づかない自分の本心…。怖いですよね。
でも"終わりなき夜"に生まれついてしまったということは別の道があるということに気づくことができない。生まれついてしまったのですから……。
破滅と絶望、しかしその運命に気づかぬ男。
この和訳はすごい名訳だと思います。あ、本のもともとのタイトルは判らないのですが。
70年代に『エンドレスナイト』というタイトルで映画化されているようですが、なんかこのタイトルだと軽いですよね。
映画ではオークションシーンなどが描かれているようなので、映画の評価に拘らずちと興味を覚えました。
そして、前の記事でこの作品を紹介してして下さったとき、清澗寺家のタイトルを思い出してしまいました。
まだノベルスになってませんが『終わりなき夜の果て』と『狂おしき夜に生まれ』。
こちらはまだ救いを感じさせるタイトルですよね。
ところで、この作品の解説はなんと真瀬もとさんなのですね!『シャーロキアン・クロニクル』の!
ああ、そういえば真瀬さんはハヤカワでミステリを書かれていたっけ。
『終わりなき〜』を買った書店はクリスティの棚があって、ほぼ全作品を網羅しているようだったので私もタイトル買いをしてみました。
『春にして君を離れ』です。『終わりなき〜』がブレイクなら『春にして〜』はシェイクスピア(らしい)。
迷わず手に取ったんですが、家に帰って本を開いてみたら解説がなんと栗本薫てんてーでした。
これって……。ああ、業を感じる!
の作品もすごく面白かったです。いっきに読んでしまいました。
栗本てんてーが"同じような苦しみをかかえた人間にとってだけ永遠に苦い切ないバイブルである"と仰るように、読み手によってかなり感じ方が違う作品だと思う。
『終わりなき〜』が暗闇の中の孤独なら『春にして〜』は果てしない砂漠の中の孤独。
いや〜、今この歳でこのふたつの作品にめぐり逢えてほんとうによかった!
いつも長文ですみません。
↑のコメントで「本のもともとのタイトルは判らないのですが」と書きましたが、ふと思いついて書店でかけてもらったカバーをはずしてみたらば、表紙にちゃんと原題があるではありませんか!
よく見たら中にも書いてあるし!(バカだ…)
『Endless Night』!
ももさんもこのタイトルのままだったらタイトル買いしませんよね?
やはり『終わりなき夜に生まれつく』というタイトルだから惹かれるんだなあ。
読み終わってみると、この物語にはこれほどふさわしいタイトルはないんじゃないかと思いました。
作品世界そのものですね。
『終りなき〜』読まれたのですね。気に入っていただけて嬉しいです!
『春にして〜』はミステリ要素なしの恋愛モノなんですよね? わりと鬱エンドと聞いたような気がしますが、「果てしない砂漠の中の孤独」ですか〜。これまたロマンを感じますね。
そうそう、『終りなき』の解説は真瀬もとさんでした!
どっかで見た名だなーと思ってたらBLの方だったのですね。
>まだノベルスになってませんが『終わりなき夜の果て』と『狂おしき夜に生まれ』。
おお、もうそんなに新作書かれてたんですか! たぶん「夜の果て」の方は読んだと思うんですが…(す、すみません)
確かになんとなくイメージかぶりますね、うふふ♪
でもってタイトルは大事ですよね。世の中にはタイトル買い層ってのがいますもんね(私みたいな/笑)
クリスティは訳者に恵まれてるなあと思います。原題がいいのも多いですが。