不連続殺人事件
犯人当ったー!!! ひゃっほうーーー!!
と有頂天になっちゃったりしてますが、現代の推理小説ファンからしたら、本作は比較的難易度の低い部類に入るものと思われます。
しかしながら、謎解きの或る一点において、この『不連続殺人事件』は名作たり得ているとも思うのです。
(以下怒涛のネタバレなので、未読の方は絶対に読まないで下さい。『ナイルに死す』未読の方も同様) +
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『不連続殺人事件』は、坂口安吾が『ナイルに死す』に感銘を受け(今風に云えばインスパイアされて?)執筆したものだと云われています。
実際、舞台設定及び人間関係の肝となる部分が『ナイル』を髣髴とさせるのですよ。
なので、『ナイル』に沿って犯人とトリックを考えてみたら、まさにビンゴだったという……まんまやんけ!
と云いたいところですが、この作品の真骨頂は多分そこにはないんですよね。
ここで整理がてら、2作品のオーバーラップする箇所を挙げてみたいと思います。
『不連続殺人事件』
・人里離れた、ホテルのような邸宅が舞台。
→犯行の可能性があるのは、ほぼ屋敷の住人と泊り客のみ。
・部屋の配置が犯行と大いに関係している。
・大富豪の御曹司・一馬、妻のあやか、あやかの元夫・光一の三角関係。
あやかと光一は険悪な仲で、始終いがみ合っている。
『ナイルに死す』
・ナイル川を下る豪華客船が舞台。
→犯行の可能性があるのは、船客のみ。
・部屋の配置が犯行と大いに関係している。
・大富豪の令嬢・リネット、夫のサイモン、サイモンの元婚約者・ジャッキーの三角関係。
サイモンとジャッキーは険悪な仲。
不仲を演じる恋仲の男女による財産狙いの犯行、これぞクリスティ作品の定番!
『ナイルに死す』におけるこの犯人像のウラ設定は、作品の肝と云っていいでしょう。
翻って『不連続』ですが――。
ナイルに影響を受けた本作に、まんま“憎み合う元恋仲の男女”が出てくるわけですから、そりゃもう犯人の筆頭候補ですよ。
さらに、2作品とも彼らが鉄壁のアリバイを持つに至るエピソードがあるのですが――
『不連続殺人事件』
ある夜、食堂であやかと光一が口論になる。同席者たちの制止にもかかわらず、口論はエスカレートし、光一はあやかに暴行を加える。
あやかは戸外へ逃げ出し、光一も後を追う。他の者達が追いついた時、光一はあやかを殴っていた。
あやかは隙を見て屋敷へ駆け戻り、二階の自分の部屋に鍵をかけて閉じこもる。
光一はあやかの部屋の前で一晩中喚き散らしていた。
そしてその夜、階下に泊っていた内海が殺される。
『ナイルに死す』
ある夜、談話室でサイモンとジャッキーが口論になり、激昂したジャッキーがサイモンを拳銃で撃つ。
弾はサイモンの脚に命中し、それを見たジャッキーはひどいショックを受けてヒステリー状態に陥る。
サイモンは同席者の看護師パウァーズに頼んでジャッキーを部屋に連れて行き、一晩中介抱してもらう。
そしてその夜、リネットが銃で撃たれて殺される。
いずれも、不仲なふたりが喧嘩騒動を起こし、その結果(傍目には) 偶 然 鉄壁のアリバイを持つに至った――という展開です。
『不連続』の場合、あやかは光一のせいで扉の外には出られないし、光一が一晩中あやかの部屋の前にいたことは周知の事実。
『ナイル』の場合、ジャッキーは朝までパウァーズに付き添われていたし、サイモンは銃で撃たれて動けなかった。
しかし、完全なアリバイほど怪しいものはないわけでして、それが胡乱な騒動の結果ならば尚更です。
このアリバイネタの時点で、ナイルを読んでなくとも推理小説好きならば、あやかと光一に疑惑の目が向く可能性は大いにありそうです。
さて、動機を同じくするこの二組のカップルは、その身の処し方まで同じなのですが、光一の最期はナイルのふたりに劣らず胸を打たれるものがありました。
そういえば、『ナイル』では女が主導的役割だったのに対し、『不連続』でははっきり男が主犯だったのはなかなか興味深いところです。
かように似通った2作品ですが、全体的に見ると『ナイルに死す』の方がすっきりと端正なんじゃないかな?
(そもそも安吾自身、端正な作風とは程遠い、むしろ無頼な作家ですが)
『ナイル』に対して『不連続』は登場人物が多すぎるんですよね。
全部で三十名以上?? しかも、冒頭で人間関係について長々説明されているにもかかわらず、その半分くらいしかエピソードに活かされてないような……。
まあ、そのぶんどれもこれも濃ゆいというか奔放というかえげつないというか……なんですがw
ただ、ひとつ冒頭に書いた「謎解きの或る一点」だけは、『ナイルに死す』を凌駕していると思うのです。
その一点とは第一の殺人の現場に残されていた鈴に関するトリックで、これが最後の、そして最大の目的である殺人を行うためのトリックになっているのです。
多分に心理的なトリックではありますが、この鈴の謎が解けた時の感動といったら……!!
これぞ推理小説の醍醐味、というよりも坂口安吾だからこその醍醐味と云えるかもしれません。
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