夏への扉
The Door into Summer / Robert A. Heinlein 1957
福島正実訳
タイムリープSFの古典中の古典、と云っていいんでしょうか?
50年以上前の作品なので、さすがに古色蒼然とした趣は否めない。
が、そのセピア色の古臭さがいい。古きよき時代のアメリカが感じられる小説。
昔のSFを読む愉しみのひとつに、同時代人ではなく未来の人間の目線で物語を眺められることがあるんじゃないだろうか。
SF映画『2010年』を実際に2010年に観てみたら、タイムワープしてきた未来人の気持ちが味わえそうな、そんな愉しさ。
『夏への扉』の舞台は2000年。主人公は1970年から30年の時を超えてやって来る。
30年……って長いのか短いのか、微妙ですね。
でも、いざ現実世界を振り返ってみると、この30年での変化って凄まじいものがあると思う。
ソ連消失ロシア復活とか、携帯電話登場とか、地理系と電子機器系は本当に激動でしたな。
そのなかでも、一番大きな変化といえばやはりインターネットの発明(?)に尽きるんじゃないだろうか。市場経済に与えた影響も大きそうだし。
『夏への扉』では、しかし、インターネットに類する発明は出てこない。
刊行当時の発明需要が別方向を向いてたのか、お手伝いロボットとか「滑走道路」(ムービングロード?)とか、単純に人の労力を省くことに重点を置いた発明が多い。
まあそのへんは娯楽小説だし、イメージしやすく画になるものを、ってことなのかもしれない。
ネットもロボットも、追求しているものは同じ――“便利さ”であることには違いないと思う。
ただ当時の社会的需要として、インターネット的な利便性は求められてなかったということなのか。
冷戦構造の崩壊からグローバル化、その流れの中でインターネットの需要は生れた、ということだろうか。
何か話が逸れましたが、『夏への扉』は別に社会派小説でもなんでもない、あっけらかんと明るい、五月の朝のように爽やかな物語です。
前半、手酷い裏切りにあって主人公が自暴自棄になったりするんだけど、それでも全然鬱にならない。基本的に前向きなんですよね。
このポジティブ思考はアメリカ人ならではなのか……見習いたいところです。
個人的には、後半二度目のタイムリープを試みるあたりからがスピード感あって面白かった。
このあたりになると、「あー、あれはこういう伏線だったのかー!」と話のオチもだいぶ見えてくるんだけど、それでも最後まで愉しく読めました。後味すっきり。
ところで、この作品、最近同じ早川から新訳で新装版が出たらしい。
私が読んだのは古い版で、訳もかなり古いらしく、読みながらところどころ違和感があった。
もし新たに読まれる方があれば、新装版の方がいいかもしれません。
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