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趣味の遺伝・琴のそら音

倫敦塔・幻影の盾 (新潮文庫)


なんとなく読み返したくなり、読み返してみた。十数年ぶり。
ストーリーかなり忘れてたのに、なぜかとても懐かしかった。

夏目漱石の作品は、『三四郎』と『夢十夜』が一番好きだ。
初期から中期にかけての、浪漫主義匂い立つような物語性の強い作品群は、読んでて本当にワクワクしたもんである。
とりわけ『夢十夜』は、幻想的な舞台装置の中に人間の性を浮び上がらせて、切ないような怖いような不思議な余韻を残す、まさに“珠玉の短篇集”だと思う。

対して中期後半から後期にかけての作品群ってのは、もうどんどん内省の深みにはまってく感じで、読んでて辛かった……。
一時期、夏目漱石を集中的に読んでたことがあって、全作品制覇する気まんまんだったんだけど、『門』あたりからの閉塞感にどうにも嫌気が差して挫折しちゃったんですよね。
(でも『二百十日』なんかは結構好きだった、諧謔味があって)

『倫敦塔・幻影の盾 他五篇』も当時読み漁った中の1冊。
趣向の異なる7篇いずれにも浪漫趣味が横溢しているのだが、中でも「趣味の遺伝」と「琴のそら音」が好きだった。
当時の読書メモには、「日露戦争は、ロマネスクな怪談の似合う最後の戦だったのかな」なんて書いてある。
そうそう、確かにロマネスクな怪談。但し、とても日本的な、奥床しいロマン。

自分の知らないはずの時代に懐かしさを感じる、って考えたら不思議なんだけど、それこそ連綿と続く日本人の遺伝子のなせる業なのかと思うと、なんだかぞくぞくしなくもない(愉しくて)。

ところで、この時代の男の人が親しい友人などを呼ぶときの、名前の頭に「さん」をつけた呼び方(「趣味の遺伝」だと、浩一に対して「浩さん」とか)に萌える。
特に年少者が年長の男性に呼びかけるときの、親しみと奥床しさの入り交じった感じ、いいなあ。

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