良くも悪くもハリウッド

アメリカ版ポスター


えー、まあタイトル通りの感想でした。

上のポスターはアメリカ公開時のものらしいですが、左腕の赤さが…なにやら禍々しいですね。
もう一個、オディールメイクのアップ顔のポスターもあるんですが、こちらはおどろおどろしいメイク+真っ赤に充血した目というホラーなシロモノ。
とポスター見ただけでも、制作側のスタンスが非常によくわかります。

日本版ポスターは私が見たところホラー要素排除してるようですが、アピールの方向性が違うんですかね。
“バレエ界を舞台にした心理サスペンス”とか? なんだかそれもなあ……合ってるようで合ってない。
“心理サスペンス”っていうのはやはり、主人公が少しずつ精神的に追いつめられてゆくその過程をどれだけリアルに面白く見せるか、そしてそれをあくまで役者の演技とセリフによって表現する、そこに醍醐味があると思うんですよね。
舞台劇に心理サスペンスの良作が多いのも、そういう理由からなんじゃないでしょうか。

翻って『ブラックスワン』はというと……とにかくショッキング!ショッキング!ショッキング! とまあ実にハリウッドらしい恐怖を煽る演出方法。
観客を引きつけておくためにとにかくショックを与え続けろ!って意図が透けて見えそうな。
こういうの、そういえば『シックス・センス』観たときも思ったなあ……。

大体ストーリーからしてどうよ。
NYCバレエのプリンシパルがあんなにひ弱いなんてありえねーとか、性的抑圧で統合失調症とかいつの時代ですかとか、ダンサー下手すぎ&品なさすぎとか。
性的抑圧の主因が母親の過干渉ってのも、相当手垢のついたテーマでまたかよって感じだし。
文句だけなら延々書き立てられそうです。
あるいは、これはなんちゃってバレエ界のホラー映画なんだ!と思えば腹も立たないかもしれませんが。
が! これ観て「バレエ界ってこんなセクハラ指導するんだ」とか「枕営業やるんだ」とか変な偏見持たれたらすごく厭だわ……(ないとは思うけど)。

まあとりあえず最後まで寝ずに観られたわけだし、それなりに面白い映画だったんだ…とは思います。
うーん、でもやっぱりこの手のハリウッドものはもういいかな。

やまとしうるはし

ポスター

小学生の時に「さらば宇宙戦艦ヤマト」を観に行ったんですよねえ…大好きだったなあ、ヤマト。
あの夏の熱気は今も忘れがたく、子供時代の記憶とともにあります。

去年、“ヤマト実写化! キムタク主演!”と聞いたときは、え、何その誰得企画、ていうかどうせいつもの見苦しいグダグダの末の企画だろう、ていうかT●S経営苦しすぎて藁にもすがりたくなったのかね……と、大人になるっていやねーみたいな醒めた心境だったんですが。
ネットでトレイラーとか観てるうち、なんかキムタクは全然古代に見えないけどネタとして観る分には面白いかも…とじわじわ好奇心を掻き立てられたのでした。

まあ実際のところ、ヤマトファンの端くれとしてCGで動くヤマトを観てみたかったのかもしれません(笑)。

というわけで行ってきました、「SBヤマト」。
平日のレイトだったので20人ほどしか客が入っていなかった。
時間的にサラリーマンは厳しかったのか、学生風の若者の姿が目立ってました。
今の若者にはヤマトってどんな位置づけなんだろなあ。もはや歴史の彼方の昭和アニメってところ…?

感想はというと、意外にも、思ってたよりは面白かった、ってところでしょうか。
とはいえ、脚本は本当に酷かったんだけどね……ところどころ、アニメのパートIと「さらば」のつぎはぎだし。
でもその、まさにそのつぎはぎされた原作部分に泣かされてしまった。
真田さんと斉藤が死ぬシーンなんて本当にまんまでさ、柳葉敏郎がまた、アニメの真田さんが憑依したような演技なもんだからもう…観てるこっちは「さらば」を思い出さずにはいられないわけですよ。
最後、古代ひとりになった第一艦橋に沖田艦長や真田さんたちの幻が現れるシーンとかも……まんまやんけ!

なんか観てるうちにアニメの画がダブって見えてきて、「さらば」を観てるような錯覚を起こしてしまった。
そうそう、今市子の『萌えの死角2』に舞台版『トーマの心臓』を観たエピソードがあったけど、ちょうどあんな感じかも。
心頭滅却すれば火もまた涼し、じゃないですが、最後にはキムタクさえ古代に見えてしまったというファン心です。

しかし、キムタクは見事なまでにキムタクだった。あそこまで徹底していると清々しくさえあります。
森雪のメイサは、まああんなもんでいいんじゃないでしょうか(なげやり)。
個人的に(あくまで個人的に)よかったのは、渾身の真田さん演技の柳葉さんと、斉藤役の池内博之でしょうか。
あとミーくん役の猫が超可愛かった。これだけは原作を超えてると云えるかもしれない。

今回しみじみ思ったのは、「宇宙戦艦ヤマト」という作品の主人公は古代でも沖田艦長でもなく、ヤマトという艦なんだということです。
はからずも、ヤマトの見せ場が殆どなかったこの実写版に教えてもらった気がする。
あと音楽について。
実写版の音楽担当は佐藤直紀氏でした。
佐藤氏といえば『ハゲタカ』等々の実績もあり、それはそれで期待の持てるところなのですが、なまじ宮川氏のテーマ曲を使ってしまったものだから、完全にそちらに食われてしまった印象を受けました。
まあヤマトにあのテーマ曲は外せないというのは確かなんだけど、なんか佐藤氏的には複雑なものがあったんじゃないかなあ…。

とまあ、いろんな意味で中途半端な印象の映画でした(なかなか面白くはあったけど)。

それはそうと、映画のおかげで久々にヤマトが観たくなり、今ネットでパートI全26話を鑑賞中――この昭和臭がたまらん。
これが終ったら「さらば」に行こう…辛いけど。
ちなみに私にとってのヤマトは「さらば」で完結してます。作品的にも「さらば」が最高傑作だと思う。
音楽は、でも、「永遠に」もすごくいいんですよねえ…まさに愛とロマン。
最後に、パートIから特に好きな曲をひとつ貼っておきます。

「宇宙戦艦ヤマト」より“出発(たびだち)
http://www.youtube.com/watch?v=h7mFp2H_PfY

THE LIMITS OF CONTROL

the limits of control


ジム・ジャームッシュの映画です。なつかしの(わたし的に)。
ジャームッシュといえば、やはり思い出されるのは『ストレンジャー・ザン・パラダイス』、いわゆる“オシャレ系”映画の走りでしょうか、扱いとしては。
“オシャレ系”なんて云うとマニアの方に鉄拳くらいそうですが、日本でのプロモーションはそんな感じだったような…?
ただ、サブカルが今ほどファッションの一部になってなくて、そもそも“オシャレ”なんて表現もなく、それゆえ濃い映画ファンにもきちんと受け入れられていたんですよね。
レッテル貼りってのはいつの時代でもあるだろうけど、現代は特にあまり建設的じゃないことが多い気がするなあ。

で、物語ですが、物語はあってなきがごとし!
一応、謎の男が謎の暗殺指令を受けてスペインへ発ち、どこからともなく現れる謎の仲間たちからまた指示を受け、スペイン各地を転々とし、最後に暗殺を実行してどこへともなく去ってゆく、という“物語”らしき流れはあるんだけど、エピソードの繋がりとか感情表現とかいったものが皆無に等しいので、まるで現実味がありません。

感情表現について云えば、そもそも登場人物に感情があるようには描かれていないしね。
なんか一種の記号っぽいんですよね、登場人物たち……名前も固有名詞じゃなくて、「孤独な男」とか「ヌード」とか「ギター」とか、まんま記号だし。
「ギター」とか「分子」とかが、主人公である「孤独な男」の前に次々と現れ、「スペイン語は話せるか?」を合言葉にギターや分子についての不思議話を長々語ってゆく。

このエピソードに加え、美術館を訪れるシーン、新しい土地を訪れるシーンなどが少しずつ趣を変え、変奏曲のように延々繰り返されるんですね。
ジャームッシュ自身、インタビューで「芸術作品における繰り返しの重要性」みたいなことを語ってるので、相当こだわりのあるところなのでしょう…。

しかし、この繰り返しがね、謎かけはあれど答はなし、人間関係の構築もなし(そもそも人間関係自体存在しないんですが)、従って次のエピソードへの繋がりもなし、で、やたら淡々と流れてゆくんですよ。
セリフも音楽も同様に淡々……だがしかし、このリズムがなんだかひどく心地いいんだなあ。
不眠症のあなたに捧げたい、素晴らしき催眠映画。
というのは半分冗談ですが、絶妙に計算された繰り返しって実に心地いいものだと思いました。

で、個人的にこの作品の見所は映像、というよりもスペインの風景だと思う。
不思議な造型と色合いをした建物、また建物……夢の中に出て来そうなそれらが、ふつうに街の中に存在してるんですよね。
そしてこの風景があるからこそ、不可解で不条理な物語が引き立っている、もしくは成り立っているとさえ云えるんじゃないかと思う。
後半の荒涼とした風景もいいんですよね。前半とのギャップがまた。
スペインって、場所によってこうも雰囲気が変るんだなあ…と、ヨーロッパ的洗練からはみ出たその幻想性、その奥深さがたまらんです。

ところで、映像いいなあと思ったら、カメラはクリストファー・ドイルだった。
ドイルといえばウォン・カーウァイ、カーウァイといえば『恋する惑星』と『ブエノスアイレス』ですね、ああなつかしい。
『ブエノスアイレス』、また観返したいなあ……レスリーの小悪魔っぷりはまさにジルベールそのものでした。
DVD買おうっと……。

ハゲタカ

image of the HAGETAKA


7月に入って仕事がすんごい暇になったんですが、時間があればあったでダラダラしてしまうなあ…。
忙しくて何も出来ず、暇でも何も出来ない……。

映画『ハゲタカ』の感想を書こうと思ってるうちに上映が終了してしまいました…。
1ヶ月あまり…祭の渦中にいるとあっという間ですね。ああ、毎日ワクワクドキドキで楽しかったなあ。
(でも仕事してる間は異様に長い1ヶ月でもあったという)
六本木と新宿はまだしばらく上映してるそうで、なんか細い糸に希望を託したくなりますね。
このまま粘りに粘って上映続けてくれないかな。来月東京行くので、それまでやってて! お願い!
そういえば、お台場のガンダムが8月いっぱいなんですよね。あれも記念撮影してこよう。ふふふ。

結局、試写会含めて3回観たんだけど、初回と2回目以降では結構自分の中の感ずる部分が違ってて、そのへんも面白かったです。
思ったより劉の存在感が大きく、しかし、心情を忖度するのが鷲津以上に難しい人物のため、最初はどう捉えていいのか戸惑ったんですよね。
ドラマ同様、あるいはそれ以上に、脚本が行間を読ませる作りになっていたせいかもしれない。
劉にしろ鷲津にしろ、セリフよりも表情や仕草、沈黙こそが雄弁にその心情を語っていたんじゃなかろうか。
何か観客の想像力を試すような、非常に余白の多い作り――そういえば、こういうのってちょっと能っぽくない?
や、もちろん、ハゲタカに謡曲めいたところなんてないんだけど、なんか余白に重きを置く作劇法が能っぽいかなあ…と……。
でも、その日本的感性に寄り添う作りが、題材のドライさに作品性を与え、独特の『ハゲタカ』的世界観を生み出しているようにも思えるのです。

ツッコミどころも、やはりドラマ同様結構あると思う。しかし、それを凌駕する魅力があるんだよなあ。
考えてみれば、世に名作と謳われる作品ってそういうの多くないですかね?
ところで、スタンリー株が暴落するシーン、なんかデジャヴュがあるなあと思ったら、同じ林宏司脚本の『ビッグマネー!』に似たようなシーンがあったんだった。
これ、メガバンク潰しの話なんだけど、風説の流布から銀行株を暴落させるクライマックスシーンがちょうどリヴァイアサンの断末魔って感じで、スタンリーのシーンに重なるものがあるんですよね。
『ビッグマネー!』も実際トンデモな部分あったんだろうけど、そんなことどうでもいいくらい、とにかく面白い作品でした。
林脚本のキレのよさは尋常じゃないと思う。

それにしても、劉は美しかったな…。札束がひらひら舞うシーンなんてもう、目が釘付けになっちまいましたよ。
このシーンと、CLICがアカマから手を引くと聞いて机の上をばーん!と叩くシーンが、劉絡みだと特に好きかな。
映画全体で一番好きなのはラストシーン、赤土の大地に佇み、それから歩き出す鷲津のシーンです。
あの大地って、きっと劉の原風景なんですよね。
劉の辿った道のりを思い返すと、どうしようもなくやるせなく、泣けてしまうのだけれど、最後、新たな戦場へと(或いは“資本主義の焼け野原”へと?)踏み出すかのような、鷲津の確かな足取りになんだか救われた気がした。
そう、そして人生は続いてゆくんだよね…。

次があるとしたら、やっぱり守山くんが何かしら絡んでくるのかな。考えただけでワクワクしてしまう。
ああ本当に続篇あるといいなあ。

MILK

書きかけのまま放置してました…。以下、先週末のお話。

+++

予想はしてたけど、お客さん少なかった…週末のレイトショーだったのに!
“同性愛”、“政治”、“伝記モノ”と敬遠されそうな要素揃い踏みだもんなあ。
ガス・ヴァン・サント作品じゃなかったら、私も観に行かなかったかもしれない、が、こういう映画が当たる国が羨ましい気もするんだなあ。

ハーヴィー・ミルク役にショーン・ペンって、わたし的にすごく意外な人選でした。
マドンナの元旦那というイメージが強烈だったもんで……(いつのことやねん!って話ですが)。
古き良き時代のカウボーイ役とか似合いそうな、なんか個人的にサント監督の世界観とは真逆の印象があったんですよ。
しかし、ショーン・ペン、すごかったです。見事にハーヴィー・ミルクになりきって、どこにもショーン・ペンの匂いを感じさせなかった。
ちょっとした仕種とか若者を見る目つきとか、もう自然にゲイなんですよね。
結構な頻度でキスシーンがあったんだけど全然違和感なかったし。
役者ってすごいなあって、なんかもうシンプルに感動してしまった。

ハーヴィーという人は別に清廉潔白ってわけじゃないんですよね。
物語の始まりがナンパシーンってことからも充分汲み取れるわけですが、監督は等身大の男としてのハーヴィーの半生を描きたかったんだと思う。
等身大の、ただし、とても魅力的な40代の男性ですね。
いわゆる“人たらし”の魅力っていうのかなあ……一見平凡な中年男なのに、気がついたら惹きつけられてしまっている不思議。
映画観ている人たちも同じだったんじゃないかなあ…てか私はそうでした。
まあ、だからこそ伝説の(?)政治家になったわけで、その、人間的魅力が政治家的資質に結びつくという事実が、すごく自然に描かれてて説得力ありました。

時間にして2時間ちょっとだったのに、まるで長いと感じなかった。とにかくテンポがよくて、メリハリ効いてて面白かったです。
いや本当に、いい映画だったなあ……。
あと余談ながら、ハーヴィーが途中で別れてしまう彼氏がイイ男でした。
なんで別れちゃうんだろう、もったいない。お互い未練タラタラなのに…ってそこが恋愛の難しいところだよね…。
結局ヨリは戻らないんだけど、二人の間には最後まで温かなものが流れ合っていて、そういう関係もいいなと思った。
物語の最後で、実在のモデルたちのその後が写真とともに紹介されるんだけど、写真の姿にまるで違和感感じない! よく特徴を捉えてるなー。
そんなところにも、監督と俳優たちの作品に対する熱意を感じました。