風の谷のナウシカ

ワイド版 風の谷のナウシカ7巻セット「トルメキア戦役バージョン」 (アニメージュ・コミックス・ワイド版)

最近、“積読本を減らそうキャンペーン”を大々的に実施中でして……その一環でついに完読しました、ナウシカ。

いやいや、こんな厭世的な話だったのかあああ。
アニメージュに連載してた頃途中まで読んだ記憶はあったんだけど、クシャナのエピソードしか憶えてなかったわ…。
あとは、虫超苦手だけど王蟲(一発変換出来た〜)がだんだん可愛く思えてきたとか、コマ割が適当すぎるとか、わりとどうでもいい記憶のみという。

当時最後まできちんと読んでたらどうだったかなあ…たぶん、今よりは作者に共感出来たかもしれない。
結局のところ、原始共産制を理想とする世界観だよね、ナウシカって。
文明は悪であり、権力を握った人間はすべからく堕落する、みたいな。
今の自分にしてみれば、それは潔癖さから来る悲観主義以外の何物でもないと見えるんだけど、若者には受け入れやすい思想じゃないですかね。

最後のあたりで、「この庭にあるもの(=音楽と詩)以外に、次の世に伝える価値のあるものを人間は造れなかったのだ…」というセリフがあるんだけど、何このいかにも芸術家な厭世観。
テクノロジー全否定かよ!とツッコみつつ、あまりの宮崎駿らしさにある意味感心してみたり。
しかし、正直云って、ここまでイデオロギー全開なのは読んでて辛いです。
戦記モノとして読めばかなり面白いだけにいっそう……。

イデオロギーとかメッセージ性ということで云えば、映画の「ナウシカ」くらいがちょうどよい濃さだったんじゃないかなあ。
物語自体の濃度は漫画版の方が圧倒してるんだけど、いかんせん暗い、暗すぎる。

昔、横尾忠則が「芸術にイデオロギーはいらない」って云ってて、個人的に深く共感したんだけど、今なお真実だと思うわ。
娯楽であれ芸術であれ、人生のスパイスではあっても人生そのものではないんだよね。

物語はさておき、キャラは魅力的な人物が多かったと思う、「ナウシカ」。
クシャナは別格として、クロトワとかナムリスとか、人格者じゃない系のキャラがいい味出してるんですよね。
特にクロトワの人間臭さは面白すぎたよ。
宮崎駿には是非、この手のキャラが大活躍する娯楽作品を作ってもらいたいもんです…(時すでに遅し、かもだけど)。

駅から5分

駅から5分 1 (1) (クイーンズコミックス)



くらもちさん、私が小学生の時すでに第一線で活躍されていたと思う。
あれからウン十年経ってるというのに、この感性の瑞々しさはどうだろう。
数年前に『天然コケッコー』を読んだ時も同じようなことを感じたんだけど、くらもちさんのアンテナって全然錆び付いてないよね。未だに脱皮し続けてるようにさえ見える。
決して守りに入らないってことは、決して枯れないってことでもあるんだろうな。
そういう意味で、見事に“守破離”を体現してる人だと思う。

第1話の舞台は東京の下町、中学生の女の子が主人公の淡い恋のお話だった。
第2話にはその後の顛末が描かれているのかと思いきや、舞台はいきなり長野県に変っている。主人公もまるで関係なさそうな大人の女性。
なので当然、「ふーん、一話完結モノなんだ」と読んでたのだが、ところがどっこい、第1話からの糸がちゃんと張り巡らされてあった。
この作品、ひとつの物語を主人公とアングルを変えながら見せてゆくという、よくある手法の連作になっていたのだ。
確かによくある手法なのだが、見せ方が巧いのか、なんだかとても新鮮に読めたのが不思議。
たぶん、スポットが当たるキャラたちの役割と、各々の相関性がすぐには分からないようになっているせいかもしれない。
で、話がかなり進んだところで、「あ、ここで繋がるんだ」とちょっとした驚きがある。
スポットの当て方とかエピソードの重ね方が巧いんだろうな。それも計算を感じさせない巧さ。
これぞ熟練の技ってやつですね。

物語は群像劇風に展開しながら、その中心に、いかにもくらもちキャラらしい男子高生・圓城陽人の存在を強く感じさせる作りになっている。
この陽人くんが実にカッコよくてミステリアス。くらもちさんの男子キャラは永遠のアイドルだよなあ。
そして腐女子的には、陽人に絡んでくる眼鏡少年・入谷の存在に萌えないわけにはいかない。
このふたり、何か濃密な空気を漂わせてるように見えるものの、まだまだ関係性に謎が多いもんで、余計行間を読みたくなるというか妄想を煽るんだよね。
神社のシーンとか神社のシーンとか。
とはいえ、やはり王道系少女マンガ(? レディコミじゃないし、どう分類すれば??)なので、BL的展開にはならないだろうな…。
オーソドックスに王道的に展開すると考えるなら、陽人はオーロラ姫の生れ変わりの女の子とくっついてハッピーエンドだろうか。
それにしても、「腐女子」とか「萌え」とか出てきた時はちょっと焦った。くらもちさんのマンガでこの手の言葉を目にする日が来るとは…(笑)。

入谷は父親を事故で亡くしているのだが、形見の腕時計に関する話がとてもいい。
傷ひとつなく動き続ける腕時計を見るたびに、彼は父親のことを思い出す。
「それがせめて必然であったって誰か納得させてほしい」と彼が云う、そのセリフがひどく切ない。
たぶん人生で初めて経験する不条理――それを受け入れるまでの出来事がさらりと描かれている。
このさらりと押し付けがましくない感じ、いいよねえ。
他に、かつて人気を博した女性声優の話なんかも味わい深かった。
立場が逆転してしまった後輩のことを回想するシーン、ほんの2ページほどのシーンの中に彼女と後輩との関係性や、何故立場が逆転してしまったのかを読み取ることが出来るようになっている。
そして、「誰にも求められていないという孤独感」が誰かに求められている喜びに変るラストシーンの見事さ。
巧いんだけどあざとくない、この感性はやっぱり少女のものかもしれないと思った。

至福の徹夜明け

スラムダンク (31) (ジャンプ・コミックス)

先週今週と『スラムダンク』をまとめ借りしてきて読んでました。
読み出したら止まらないので、きりのいいところで一旦中断して用事を済ませるようにしてたんだけど、昨夜は「連休だから」とつい読み耽ってしまい、気がついたら夜が明けていた……最終巻まで計14巻一気読みですよ。

感想は、「面白かった!」と「感動した!」、もうこれ以外出てこない感じですね。
湘北チームも対戦相手の選手たちも、出てくるキャラみんなバスケが大好きで、そこにすべてが集約されるシンプルさがいい。
一人一人のバスケに寄せる想いが、それぞれ微妙に違うかたちをしていて、でもそれぞれにリアルなんだよなあ。
最初は汚れ役系かと思った豊玉の南なんかも、やっぱりバスケが好きで好きでたまらない少年で、それをリアルな説得力でもって描く井上雄彦はすごいです…。
こういうエピソードって、作者に力量がないと嘘くさい綺麗事になりがちだと思うんですよね。
豊玉の監督の「オレはお前らが大嫌いだ。なのになぜ…負けちまえって気にならないんだ」ってセリフもよかった。

そういえば、スラダンは名セリフの宝庫だそうで、有名な「あきらめたらそこで試合終了ですよ」は、読む前から私も知ってました(笑)。
あと、「バスケがしたいです、安西先生」も。
読みながら、どこで出てくるのかワクワクしてたんだけど、どっちも花道ではなくミッチー絡みだったんですね。
ただ、「あきらめたらそこで試合終了ですよ」は、最後の山王戦でもう一度出てくるので、安西先生のポリシー且つ作品のテーマのひとつでもあるのか――。
それにしても、どのセリフをとっても、それぞれのシーンにぴたりとはまってるところがすごいですよねえ。
そういうところも名作たる所以なんだろうな。

登場人物の中では花道と、ミッチーこと三井が特に好きでした。
花道は、とんでもない失敗しつつもぐんぐん成長してゆく姿を見てるのが最高に楽しかった。
“シロート”設定なのも感情移入しやすいポイントだったかも。
ミッチーはルックスと、他のキャラほど精神的に強くないところとそれでも頑張るところ、そして育ちがよさそうなところが好きかな。
もしかして母性本能をくすぐるタイプかもしれないですね。
ところで、自分の好きになるキャラって2番人気かそれ以下のことが多いので、ミッチーもあんまり人気ないだろうと想像してたんですが、ダントツ1番人気(@Yahoo!のアンケート)で驚きました。
そうだよね、カッコイイもんね、うんうん。

しかし、今思い返しても、山王戦――特に終了間際の1分間は鳥肌モノだった。
最後の力を振り絞って花道がシュート決めた時は泣きましたよ。
(ていうか、山場ではことごとく泣かされたわけですが)
ページから伝わる緊張感もすごかった。緊張感と興奮が極限に達してストイシズムさえ感じさせた気がする。
そして、そこから解き放たれた歓喜の爆発も。
この1分間は、スポーツをする者にとっての至福が凝縮された1分間だったんじゃないかと思いました。

MW -ムウ-

MW(ムウ) (1) (小学館文庫)

この作品を初めて読んだのは高校生の時。
図書室にあった手塚治虫全集の中から何気なく手にとってみたら、いきなり同性愛描写が目に飛び込んできて驚いたものです。
(同性愛描写とはいっても、ごく上品かつ抽象的なものなのだが、なにしろ当時は免疫なかったので結構ドキドキした)
しかし、憶えていたのはそこだけで、ストーリーについてはきれいさっぱり忘れ去っていた。
或いは、忘れてしまったわけではなく、始めからろくに読むことなく書架に戻していたのかもしれない。いや、きっとそう。
というのも、今回読んでみてわかったのだが、この『MW』という作品、かなり残酷なのである。
実際これがリアルな画風で描かれていたら、今だって読むのをためらうかもしれない。
多感な時期ならなおさら、軽くトラウマになったと思う。

ことほどさように『MW』は、手塚治虫の明るく健全なイメージからはかけ離れている。
同性愛はもちろん、殺人、強姦、獣姦、拷問と、描かれる内容はまるで悪徳と禁忌の見本市のよう。
そして主人公の結城美知夫は、メフィストフェレスに擬せられる殺人鬼。
その名の通り、美貌と知性を兼ね備えていて、出逢う人間すべてを虜にしてしまうような魅力の持主だ。
変装が得意で、女に化けるシーンも多いのだが、声音まで完璧に女性になりきるところがまたすごい。
こういう変幻自在さは実に悪魔的で、どんなにありえなくても「悪魔だからね」で納得してしまう感じ(笑)。
とにかく結城の万能感と妖しい魅力は半端ではない。

結城と愛憎関係にあるのが聖職者の賀来(がらい)神父という設定も象徴的で面白い。
賀来という男、聖職者とはいえ元々が罪の意識を逃れるために入信したこともあって、非常に人間くさい。
結城を受け入れることも断ち切ることも出来ず、常に迷い悩んでいる、そういうところは結城よりもよほど俗っぽく人間的だと云える。
迷える子羊は、どちらかというと賀来の方なんだよね。
賀来と較べてみるとわかりやすいのだが、結城にはまったく迷いがない。
目的のためならどんなに残酷なことも厭わず、子供だって殺してしまう。
このあたりの容赦なさはすごい。手塚治虫もよく描ききったと思うし、それを許した当時の出版社また社会の懐も深かったのだろう。
結城が殺人兵器“MW”を追うことにも、別に大義名分など存在しない。
どうせ死ぬなら人類を巻き添えにしてやろうという、ただそれだけの理由なのだ。
その悪への徹しようは痛快でさえある。

実際、結城を見ていると、男と女、正義と悪、神と悪魔、あらゆるものの境界が溶けてゆく錯覚を覚えなくもない。
作中「悪魔も神さまも結局同じものなんじゃないかしら?」とのセリフがあるが、結城を通して手塚治虫が表現したかったものもそういうことなのだろう。

しかし、ただのスーパーマン的造形では物語に奥行きがなくなってしまう、ということで、結城にも人間的な感情はある。
それが描かれるのが賀来とのシーンで、賀来を翻弄しつつもどこか女性的な甘えが垣間見えるのが面白い。
賀来に抱かれながら「それとも……女に会うの?」と呟くところなど、薄暗い情念さえほの見える気がする。
このシーン、サロメとヨカナーンがモチーフに使われているのだが、結城の愛情もまた、サロメと同様に純粋で屈折したものだったのかもしれないと思うとちょっと切ない。

結城と賀来の関係についてはただし、深い感情的繋がりは窺えるものの突っ込んだ心理描写がないため、読者は語られていない部分を想像で補う必要がある。
これは、結城と家族(特に兄)との関係についても云えるかと思う。

以下、どうでもいいようなことを少し。
『MONSTER』のヨハンって、結城を少なからず参考にしたのかなあと思った。
特に女装して悪巧みをするところはかなりイメージかぶるので、確実に影響受けてる気がする。
(結城と『悪霊』のスタヴローギンを足して2で割り、10倍に希釈したのが、ヨハンの個人的イメージ)
政治家「中田英覚」のアナグラムに気付いた時は、なるほどと思ったというか驚いた。
それから、結城がもみあげ作ってるのは当時流行ってたからなんですかね。
もみあげ残したまま女装するのは至難の業だと思うけど、そこは漫画なので気にしないことに…。

行き当たりばったり

よく人から「計画性がない」と云われるんですが、たまに自分が買ったものを振り返るとそれがよくわかります。
今日だってコンビニにメール便出しに行っただけなのに、店出た時には、シュークリームとエクレアと塩チョコとポテチ(フレンチサラダ味)とアメリカンドッグの入った袋を提げていましたよ…あああ。
でも、コンビニ行ってお菓子を買わずに出るのは、なんか勿体ない気がするんですよねー。
ま、要するに自分が誘惑に弱いだけっちゅーことなんですが。

さて、TSUTAYAの割引キャンペーンに滑り込み、また漫画10冊借りてきました(10冊以上借りると更に安くなる)。
今回は、『銀魂』7〜11巻、『よつばと!』1巻、『SLAM DUNK』1巻、『チェーザレ』2巻、と『医龍』2&3巻。
『聖☆おにいさん』の2巻はオールレンタル中だった…買った方が早そう、なんだけど買うほどでもない、という微妙な位置づけの漫画なんですよ。
逆に、『銀魂』はもう買ってもいいかなー、できれば手元に置いときたいかなー、という感じ。
「くだらねー」と思いつつ馬鹿笑いしてしまう、あのゆるいギャグが好きすぎる。きっと脳内麻薬出てると思います。
そういえば、『ブラッディ・マンデイ』を借りようと思ったら全巻レンタル中でした。ドラマ化効果すげー。
これ、設定が面白そうだったので興味もったんだけど、でもネットで感想読むとなんか微妙っぽい。うーん、やっぱ読まなくてもオッケーかすぃら…。
全巻レンタル中といえばスラダンがいつもこのパターンで、根強い人気に慄いてたところ、今回やっと1巻借りられました。2巻以降のことを考えると眩暈がします…。
ちなみにこのTSUTAYAの人気ランキング1位は『20世紀少年』です。今ならどの店舗のランキングでも1位とってそう。
(てか、これって全店舗共通ランキングだったりする?)

この記事、カテゴリどうしようかなあ…うーん、「マンガ」で行くか。