ジム・ジャームッシュの映画です。なつかしの(わたし的に)。
ジャームッシュといえば、やはり思い出されるのは『ストレンジャー・ザン・パラダイス』、いわゆる“オシャレ系”映画の走りでしょうか、扱いとしては。
“オシャレ系”なんて云うとマニアの方に鉄拳くらいそうですが、日本でのプロモーションはそんな感じだったような…?
ただ、サブカルが今ほどファッションの一部になってなくて、そもそも“オシャレ”なんて表現もなく、それゆえ濃い映画ファンにもきちんと受け入れられていたんですよね。
レッテル貼りってのはいつの時代でもあるだろうけど、現代は特にあまり建設的じゃないことが多い気がするなあ。
で、物語ですが、物語はあってなきがごとし!
一応、謎の男が謎の暗殺指令を受けてスペインへ発ち、どこからともなく現れる謎の仲間たちからまた指示を受け、スペイン各地を転々とし、最後に暗殺を実行してどこへともなく去ってゆく、という“物語”らしき流れはあるんだけど、エピソードの繋がりとか感情表現とかいったものが皆無に等しいので、まるで現実味がありません。
感情表現について云えば、そもそも登場人物に感情があるようには描かれていないしね。
なんか一種の記号っぽいんですよね、登場人物たち……名前も固有名詞じゃなくて、「孤独な男」とか「ヌード」とか「ギター」とか、まんま記号だし。
「ギター」とか「分子」とかが、主人公である「孤独な男」の前に次々と現れ、「スペイン語は話せるか?」を合言葉にギターや分子についての不思議話を長々語ってゆく。
このエピソードに加え、美術館を訪れるシーン、新しい土地を訪れるシーンなどが少しずつ趣を変え、変奏曲のように延々繰り返されるんですね。
ジャームッシュ自身、インタビューで「芸術作品における繰り返しの重要性」みたいなことを語ってるので、相当こだわりのあるところなのでしょう…。
しかし、この繰り返しがね、謎かけはあれど答はなし、人間関係の構築もなし(そもそも人間関係自体存在しないんですが)、従って次のエピソードへの繋がりもなし、で、やたら淡々と流れてゆくんですよ。
セリフも音楽も同様に淡々……だがしかし、このリズムがなんだかひどく心地いいんだなあ。
不眠症のあなたに捧げたい、素晴らしき催眠映画。
というのは半分冗談ですが、絶妙に計算された繰り返しって実に心地いいものだと思いました。
で、個人的にこの作品の見所は映像、というよりもスペインの風景だと思う。
不思議な造型と色合いをした建物、また建物……夢の中に出て来そうなそれらが、ふつうに街の中に存在してるんですよね。
そしてこの風景があるからこそ、不可解で不条理な物語が引き立っている、もしくは成り立っているとさえ云えるんじゃないかと思う。
後半の荒涼とした風景もいいんですよね。前半とのギャップがまた。
スペインって、場所によってこうも雰囲気が変るんだなあ…と、ヨーロッパ的洗練からはみ出たその幻想性、その奥深さがたまらんです。
ところで、映像いいなあと思ったら、カメラはクリストファー・ドイルだった。
ドイルといえばウォン・カーウァイ、カーウァイといえば『恋する惑星』と『ブエノスアイレス』ですね、ああなつかしい。
『ブエノスアイレス』、また観返したいなあ……レスリーの小悪魔っぷりはまさにジルベールそのものでした。
DVD買おうっと……。